子午線のまちと子午流注

先日、明石市立天文科学館へ行ってきました。
明石市は「子午線のまち」といわれています。
厳密には、兵庫県三木市なども子午線が通るので、三木市も子午線のまちといえます。

「日本標準時の基準となる東経135度子午線上のまち」という意味です。
日本国内では時差はありませんが、明石市を通る東経135度の経線を「基準」として、日本の標準時間としています。

古い時代には、方位や時刻を十二支で表していました。
北を「子(ね)」、南を「午(うま)」と呼びました。
子午線は、北と南を結ぶ線のことをいいます。
余談ですが、司馬遼太郎さんなどの歴史小説では干支を使った時刻がよく記されています。

ところで、このねずみやうまを表した干支(えと)を使った鍼灸理論、治療法があります。

(出典)黄龍詳:『中国鍼灸史図鑑 第2巻』科学出版社東京株式会社、2014年10月20日

干支を天体観測に使っているものに子午環(しごかん)がありますが東洋医学、鍼灸では子午流注(しごるちゅう)の法則を利用したものになります。
中国の古い時代に理論化されました。
金代の『子午流注鍼経』にみられ以後、使いやすいものに改良が加えられました。
鍼灸専門学校でも教えているところもありますし、私の所属する会では受講生へ治療法を指導しています。

完全に理解するには少し複雑で覚えることが多い理論ですが、一言でいうと時間を利用して治療していきます。

ここからは、専門的かつ具体的な話になります。
ツボとツボを結んだ線(面)となる12本の経脈をそれぞれの干支に配置します。
例を使って子午線で説明しますと、子(ねずみ)には足少陽胆経を、対角線上となる午(うま)には手少陰心経を配置します。

症状として右側頭部に片頭痛があったとします。
対角線上となる左腕の手少陰心経の経脈上に反応しているツボを探して鍼をします。
すると手に鍼をしたのに、頭痛が解消したりします。
症状とツボを経脈上にしっかりとることがポイントです。

ちなみに、通常であれば右脚の足少陽胆経の経脈上に鍼をすることが多いとおもいますが、あえて左腕の手少陰心経を使う治療法です。
たくさんある鍼灸治療法のなかで子午流注をあえて選ぶ理由を類推すると、個々の鍼灸師の好みやさじ加減、症状との相性などといったところだとおもいます。

(出典)山田光胤・代田文彦:『図説東洋医学 基礎編』、学研プラス、1979年12月1日

なお、左右の足少陽胆経は各々の頭だけでなく腰を通りますので腰痛の治療にも子午線を使った治療ができます。
しかし、腰痛にも痛みの場所がありますので足少陽胆経が使えないこともあります。
その場合、腰の中心辺りが痛い腰痛は申(さる)に足太陽膀胱経、対角線上の寅(とら)に手太陰肺経を使います。
私ならまず、手太陰肺経上の孔最というツボの周辺を探します。

この治療に鍼を深く刺す必要はありません。
経験則上では、逆に鍼が深いと効きが浅いような印象です。

鍼をするツボは、一ヶ所が効果的です。
欲張って二ヶ所や三ヶ所では、鍼の効果がぼやけるような印象です。

遠隔にする治療法で、曲芸のような治療ができたりします。
応用範囲の広い理論と治療法ですが、この治療を得意としている先生方もいます。

子午線といった時間などを使った不思議な鍼灸治療法です。
効果がある治療法なので私もたまに腰痛や頭痛などに利用することがあります。

天気が良く、明石海峡大橋と淡路島が見えました。
子午線を背景に写真を撮りつつ、子午流注の治療法をおもい出してしまいました。

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