鍼灸師はまず、脈をみます

私は普段の治療で始めに脈を診ます。
脈を診ることを脈診(みゃくしん)といい、多くの鍼灸師が脈診を行います。
私がお世話になった先生方、師匠は例外なく全員脈診をしています。

また、東洋医学的診断を行い、漢方薬を扱う内科医の先生や薬剤師の先生で脈診をされる方もいます。

(出典)首藤傳明:『経絡治療のすすめ』医道の日本社、1983年9月10日

私は図のように、仰向けになっていただき、左右の手首の外側にある脈を診ます。
橈骨動脈という脈、いわゆる血管を診ています。

日本伝統鍼灸学会からでている「日本伝統医学 学術用語集」では、脈診を下記のように定義しています。

切診の一種。
脈動部を触察し、その状態によって、病の診断・予後判定に用いる診察法。
三部九候診・人迎脈口診・寸口脈診などがある。
現在は手の橈骨動脈の拍動部を診る寸口脈診が主流である。

学会の定義を読むだけでは、何のことだかさっぱりだとおもいます。
脈診は流派により、やり方も様々あります。
首の頸動脈拍動部を使う脈診があります。
また、中国の方では片手の脈を診たりします。
私は主流とある、橈骨動脈の拍動部を診る寸口脈診をしています。

脈診は、病や症状の診断に使います。
また、病や症状の経過の判定に使います。

脈診は、脈の状態から症状を予想するようなことができます。
悪いところが分かったりします。
脈の状態から、治療後の経過を推察することができます。
あまり書き過ぎると、眉唾のような印象や誤解を与えてしまうので、難しくもあります。
このあたりは、大きく主観をともなうという点がありつつも、一つの統計学だと私は理解しています。

脈診は物凄く奥が深いものです。
また、分かりにくいものです。
何千年の歴史というような世界観です。
脈診には、人生を捧げる価値があるものなのかもしれません。
一方、脈診を諦め、挫折する鍼灸師も大勢います。
ただ、国家試験に実技として課されることはありませんので脈診ができなくても、またはあえて脈診をしなくても鍼灸師にはなれます。

患者さんから脈診について、何をしているのかいったい何を診ているのか聞かれることがまれにあります。
脈診で具体的に何を診ているかといえば、「内臓の状態」を診ています。
昔、師匠の村田先生が患者さんから質問を受け、そのように答えていました。
先生は脈診を得意とする鍼灸師でした。

余談ですが生前、ご本人からうかがった話です。
数十年前、村田先生は我々の世代が学んだ『東洋医学概論』という教科書の執筆に関わった先生でした。
受け持ちのパート以外も大人の事情などで、文章を書いたと話されていました。
先生は話、説明に無駄がありませんでした。
私も患者さんにはまず、村田先生のように説明しています。

専門用語の多い東洋医学、鍼灸の世界ですが患者さん、一般の方にもできるかぎり分かりやすく説明するように努めたいとおもっています。

最後に鍼灸師側からいいますと、脈診にはその診断方法としての効果だけではなく不思議な力、魅せられるようなものがあります。
十年以上前の話です。
私が学生のときに所属する会で初めて脈診というものを見たときの感想です。
大勢の前で治療をする先輩鍼灸師の松本和美先生が、まず脈診をしていたのですが「かっこよかった」という印象がありました。
その脈診をする姿を見て脈診のできる鍼灸になりたいとおもい、現在に至ります。

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