鍼灸師を目指そうとする人の特徴と、…向いている人

鍼灸師は国家資格を取得した人で、厚生労働大臣から免許を付与された人をいいます。
先日、何かをきっかけとして妻と鍼灸師を目指そうとする人はどのような人たちなのかなと話をしていました。
私も妻も専門学校に通い、また勉強会などを通して鍼灸師を目指す多くの人を見てきましたが、その特徴について考えてみました。

また、鍼灸師を目指しつつ、鍼灸師に向いている人を独断と一部偏見となるかもしれませんが検討してみました。

  1. 手に職をつけたいとおもう人
  2. 定年後、老後に鍼灸をしようとおもう人
  3. 集団が苦手で、一人で仕事がしたい人
  4. 自分や身近な人が病気なので、鍼灸で治したいとおもう人
  5. 自然療法に興味、関心がある人

手に職をつけたいとおもう人

はじめに、手に職をつけたいと考える人は多いとおもいます。
私も少なからずサラリーマンを辞めて、築地市場でアルバイトをしているときに考えていました。

私は鍼灸師となり居住地を群馬県から東京都へ、現在は兵庫県と変えています。
鍼灸師として沖縄県に行った仲間もいますし、豪華客船で世界を回りながら鍼灸治療をしていた仲間もいました。
手に職をつけると引越しを割と抵抗なくすることができたり、身軽になります。

突然ですが、西暦2045年に「シンギュラリティ」という問題がおとずれるといわれています。
人工知能やAIの発展により人間の知性をコンピューターが超えるという問題です。
これに伴い、人間の仕事がコンピューターに取って代わり、仕事が減るのではないかと議論されています。

ここで鍼灸師の仕事は、AIやコンピューターにより減っていき、やがて無くなってしまうのではないかという疑問が生まれます。

しかし、私は心配していません。
今後さらにカメラや高性能なセンサーなど技術が発展しますし、AIによってツボの位置を把握したり、ロボットにより人を治すことは可能だと思います。
コンピューターの技術、科学の進化のスピードはすごいと思っています。
現在の技術革新は、産業革命と同じレベルのことが起こっているのではないかという論調さえもあります。

私が心配していない理由は、AI化してもロボットが鍼灸治療をしてもお金にならないとおもうからです。
ツボや身体の治し方をデータに入力したり、鍼の刺し方やお灸のすえ方をロボットで再現するのには、途方もない時間と費用がかかります。
協力者を募るのも大変だと思います。
その費用を回収できないので、2045年以降も現在のかたちで鍼灸治療は続いていくとおもわれます。
製薬会社ではあれば薬を売ることにより費用を回収し、医療機器会社であれば医療器具を売ることにより開発費用を回収できます。
が、鍼灸においては鍼の会社や灸の会社では開発費用を回収することができるとはおもえません。

ただ、お掃除ロボットが掃除をしてくれたり、カルテの電子化など間接的な部分は変わっていくと思います。

定年後、老後に鍼灸をしようとおもう人

60歳や65歳になり、定年を迎えたら退職金を使い鍼灸師を目指そう、鍼灸院を開業しようと考える人もいるかとおもいます。

誤解を恐れずにいいますと、人は年をとると若い人には勝てなくなるとおもっています。
他人との比較だけでなく、過去の自分と比較してもいえることだとおもいます。
鍼灸の狭い世界ですが、何に勝てなくなるかをいくつか考えてみました。
思考力、気力、体力、集中力、忍耐力、指先の器用さ、捨てる勇気など。

思考力は経験である程度補うことができますが、畑違いの仕事で得た経験をうまく合致させることができるか検討の余地はありそうです。

気力と体力ですが、鍼灸の理論や技術をどこかへ学びに行くとします。
2時間かけて毎週勉強会や師匠のところへ通うのは年をとると疲れます。
なお、ただ通うのではなく、自発的に目的意識をもって動くことが大切だと思います。
また、日曜日を勉強の日としている鍼灸師は結構いて、休日があまりありません。

指先の器用さを年をとってから磨くことは、正直難しいとおもいます。
勉強会などで、20歳と60歳の方の鍼の刺し方を見ていても違いが見受けられます。
歳をとると老眼になりますので、お灸をするときに少し苦労するかもしれません。

捨てる勇気。
年をとるとモノ、経験、地位、人脈などが積み重なっていきます。
新しい世界に身を投じるうえでは、これを捨てなくてはならないことがあります。
感情の整理が上手くできず、判断や決断が難しいということもあります。
また、若い頃より年をとると人間は保守的になるという特徴がありますので、これを乗り越えなくてはならないとおもっています。

最後にその他、人の傾向としての話です。
全ての人がということではありません。
病を治せる鍼灸師になるには老後でも20歳でも年齢にかかわらず、人から鍼灸の理論と技術を学ぶ機会を得る必要があります。

理想は平等なのですが、教える側の人間も若い人を好む傾向にあります。
何十年とかけて積み上げてきた理論や技術を広めてもらいたい、伝えたいという想いが根底にありますので、その可能性が少しでも高い若い人を選ぶようにみえます。
私の偏見かもしれませんが…

では、年をとると理論や技術を先輩から学べないのかというとそうではありません。
学んだことを自分の引き出しにしまい込まずに、バトンとして後世に伝えるような姿勢であれば問題はないとおもいます。

集団が苦手で、一人で仕事がしたい人

鍼灸師は基本、一人親方です。
一人で仕事をします。
治せなかったという責任も一人で負いますが、患者さんから感謝される喜びも一人で100%味わうことができる職業です。
承認欲求の高い職業です。

学校や会社などの集団が苦手という人が、鍼灸師を目指そうと専門学校に入学してくるケースもあります。
専門学校に入学すると、そこは学校なのでグループができたりします。
少し浮いているような人がいます。
が、心配ありません。
鍼灸は、意外とそのような人が残る世界です。

自分や身近な人が病気なので、鍼灸で治したいとおもう人

本人を含め身近な人の病気を治したいという気持ちから鍼灸師を目指す人もいます。
この想いは鍼灸師を目指すきっかけになりますし、鍼灸を続けようとする強い動機となります。
もしかしたら、患者さんの気持ちを分かろうとすることができる人で、大切な要素かもしれません。
個人的には応援したい気持ちが湧きます。

ところで、コロナ禍前ですが所属している勉強会の講座で医学古典を使ったコンテストに近い発表会がありました。
症状や疾患のテーマを自身で設定し、鍼灸に関する漢文の書物を調べて治療法などを発表するという形式のものでした。
多くの発表者は、自身や家族などの症状や疾患をテーマとしてよく取り上げていました。
その年の一番すぐれた発表となる優秀賞をとる発表者は、ほぼ自身や家族の症状と疾患をテーマにしていました。

腰痛、肩こり、膝痛、頭痛、めまい、自律神経失調症、更年期障害、不眠症、下痢、便秘、顔面神経麻痺、アルツハイマー型認知症、癌、糖尿病、アトピー性皮膚炎、咳、鼻水、不妊症などなど多岐にわたります。

遠い記憶ですが、私も鍼灸専門学校時代にお金がなく歯医者に行けなかったことから、歯痛に苦しめられましたが、これを動機として歯痛をテーマに優秀賞をとることができました。

最後に、鍼灸師になる要素や条件として身体が強くないとなれない、体力がないと鍼灸師にはなれないのかということについて答えたいと思います。
私は、そのようなことはないとおもいます。
名人といわれた人でも身体があまり強くなかったということを聞いたことがあります。
現在の日本鍼灸を作り上げた一人といわれている井上恵理先生は、身体が強くなかったと何かの書物で読んだことがあります。
また、私の師匠の何人かは、関節リウマチ、糖尿病、盲目、手指の欠損などの症状や状態でも臨床で患者さんを治療していました。

自然療法に興味、関心がある人

意外と自然療法に興味のある人が鍼灸師を目指すことがあります。
現代医学に疑問をもったり、私はよく分からない領域なのですがスピリチュアルに興味がある人もいるようです。

私は自然療法やスピリチュアルを否定しません。
いいところは取り入れても面白いとおもっています。

自然療法についての参考となる本を一つ紹介します。
東城百合子『家庭できる自然療法』:1978年5月22日、あなたと健康社

鍼灸師に向いている人

鍼灸師になるには学校に通う必要があります。
前提として、学費が400~500万円くらいかかることはいっておかなければなりません。
奨学金制度もありますが、返済は長く続くので大変です。
看護師と違い、卒業後の就職の目途はなかなか難しいところがあります。
余談です。
私の妹は20年以上、看護師として働いていますが、職に困るような姿を見たことがありません。
昨年、大きな医療センターから近所の皮膚科の医院に転職していました。
開業勤務医から声がかかったようでした。

また、鍼灸は学校を途中で辞めていく人が多い世界ですが、その選択をした人もその人にとっての決断は正解だとおもいます。
向かない職業を続けることは不幸だとおもうからです。

さて、鍼灸師に向いている人は「自ら学び続けること」ができる人だと思います。
教科書や書物、人から教わることもありますが、最後は自分の頭で考え自分に合わせていくことになります。
いわれたことを上手にこなすよりは、不器用でも自分で考えて解決していくような人が向いているかもしれません。

人の身体は分からないことが多く、不思議なことも多くあります。
今まで上手くいっていた鍼灸治療が、なぜかできなくなることもあります。
はじめての疾患を治療する機会もありますので、学び続ける必要があります。

以前、難病に指定されている「重症筋無力症」の患者さんを治療したことがあります。
病院でいろいろ治療や検査をしたとのことでしたが、症状がよくないということでした。
毎日、少し動くと疲れて寝込んでしまうということでした。
まぶたが下がる、いわゆる眼瞼下垂もしていました。
私も少し時間がかかるかなとおもっていたのですが(患者さんへも説明をしました)、初回の治療で症状が劇的に改善し仕事にも復帰できたということで患者さんが驚いていました。

症状の改善には当然、個人差がありますが、積み重ねてきた治療への学びがあればこそだとおもいます。
また同じような症状の患者さんがいらしても、学び続けていれば治療への再現性は確保できると自負しています。
この辺の心構えは、師匠の武藤純一先生から学びました。

これまで、いくつかの難病を鍼灸治療する機会がありました。
難病の鍼灸治療となると、人に教えてもらったツボや治療法では上手く対処できないことが多くあります。
自分で調べ、考えて治療していく必要があります。
この学びの過程を続けられる人こそが鍼灸師に向いているのではないかとおもいます。

目次